電験三種の電気数学-16-4
amazon kindle版の「電験三種の電気数学」に関する本を出版しました。
そちらも見て下さい。
数字の基礎、ベクトルです。
これも以外とやっかいですが、交流回路では必ず必要になります。
4.ベクトルの複素数表示
電気工学では、交流回路などの表示を複素数で表します。これは、抵抗$R$だけの回路では、電流と電圧の位相の遅れは生じないが、コイル$L$、コンデンサ$C$だけの回路を考えると、電圧に対して、電流がコイルLの場合は$90^{\circ}$遅れ、コンデンサ$C$の場合は$90^{\circ}$進みとなります。この$90^{\circ}$が虚数の$j$(電気回路では虚数$i$を電流と間違えないように$j$で表します。)に相当します。交流回路では正弦波$\sin$波の波形となりますが、複素数表示で$j$をかけるとちょうど$90^{\circ}$回転したこととなり、計算するときに非常に便利だからということになります。そこで、まず、複素数平面について学習します。
(1)ベクトルの複素数表示
ベクトルの複素数表示は縦軸を虚数、横軸を実軸として
$\overrightarrow{x}=a+bj$
のように表します。
もし、実軸に対する角度$\theta$がわかっている場合は、ベクトルの大きさ$X=\vert \overrightarrow{x} \vert$とすると、次式のようにフェーザ表示(極座標表示)することができます。
$\overrightarrow{x}=X \angle \theta$
(2)ベクトルの複素数表示の計算
この成分表示の性質は
$\overrightarrow{a}=a_x+j a_y,\overrightarrow{b}=b_x+j b_y$とすると
①$\overrightarrow{a}=\overrightarrow{b}$のとき$a_x=b_x, a_y=b_y$
②ベクトル大きさ$\vert \overrightarrow{a} \vert=\sqrt{a_x^2+a_y^2}$
③
$\overrightarrow{a}+\overrightarrow{b}=a_x+b_x+j ( a_y+b_y)$、
$\overrightarrow{a}-\overrightarrow{b}=a_x-b_x+j( a_y-b_y)$
④$k \overrightarrow{a}=k a_x+j k a_y$
⑤$\overrightarrow{a} \overrightarrow{b}=(a_x+j a_y)(b_x+j b_y)=a_x b_x-a_y b_y+j(a_y b_x+j a_x b_y)$
$\dfrac{a_x+j a_y}{b_x+j b_y}=\dfrac{(a_x+j a_y)(b_x-j b_y)}{(b_x+j b_y)(b_x-j b_y)}=\dfrac{a_x b_x+ a_y b_y+j (a_y b_x-a_x b_y)}{b_x^2+ b_y^2}$
となります。
(3)フェーザ表示(極座標表示)
ここで、複素数表示の場合の計算は積、商が少し面倒ですが、フェーザ表示の場合は次式のようになります。
$\overrightarrow{a} =A\angle \theta_a,\overrightarrow{b} =B \angle \theta_b$とすると
$\overrightarrow{a} \overrightarrow{b} =AB\angle (\theta_a+\theta_b)$
$\dfrac{\overrightarrow{a}}{ \overrightarrow{b}} =\dfrac{A}{B}\angle (\theta_a-\theta_b)$
となり、積、商は簡単に求めることができます。
また、$\overrightarrow{a}=A(\cos \theta_a+j \sin \theta_a)$とおけることができるので
オイラーの法則$e^{j \theta_a}=\cos \theta_a+j \sin \theta_a$から
$\overrightarrow{a}=A e^{j \theta_a}$
とおくこともできます。
$\overrightarrow{a}=A e^{j \theta_a},\overrightarrow{b}=B e^{j \theta_b}$より、
$\overrightarrow{a} \overrightarrow{b}=A B e^{j (\theta_a+\theta_b)}$
$\dfrac{\overrightarrow{a}}{ \overrightarrow{b}}=\dfrac{A}{ B} e^{j (\theta_a-\theta_b)}$
となり、フェーザ表示と同様に比較的容易に計算ができます。また、電気回路では文字の上に・がベクトルを表します。
※ド・モアブルの定理
$(\cos \theta+j \sin \theta)^n=(\cos n \theta+j\sin n \theta)$
これはオイラーの法則を用いれば
$(e^{j \theta_a})^n=e^{j n \theta_a}=\cos n \theta_a+j\sin n \theta_a$
となり、成り立つことがわかります。
例題
電流$I_1=10+j5[A],I_2=5-j20[A]$であった。
このとき、電流$I$の複素数表示、フェーザ表示、大きさを求めなさい。
$I=I_1+I_2=10+j5+5-j20=15-j15=15(1-j)$・・・複素数表示
$\vert I \vert=15 \sqrt{1^2+1^2}=15 \sqrt{2}$・・・大きさ
$dot{I}=15 \sqrt{2} (\cos \theta+\sin \theta)=15 \sqrt{2}(1-j)$
より、$\theta=-45^{\circ}$